障害年金の請求における注意点、AI(生成AI)を活用する際のリスクと限界、そして専門家である社会保険労務士(社労士)に依頼するメリットについて、項目ごとにまとめました。
障害年金の審査はすべて「書類」によって一発勝負で行われるため、以下の点が極めて重要になります。
• 「初診日」の特定と証明
障害年金において最も重要なポイントです。初診日が証明できないと、どれだけ症状が重くても不支給になります。カルテが廃棄されている場合の代替データ収集など、慎重な対応が必要です。
• 「診断書」と「実態」の整合性
医師が作成した診断書の内容が、実際の日常生活の困りごと(労働や家事の制限など)と乖離していないか必ず確認します。医師へ正しく実態が伝わっていない場合、軽い症状で書かれてしまうリスクがあります。
• 「病歴・就労状況等申立書」の整合性
診断書の内容と、自身が作成する申立書の内容に矛盾(ズレ)がないように記述しなければなりません。
生成AIにできること
1. 「病歴・就労状況等申立書」の下書き作成
申立書は発病から現在までの経過を数年単位で区切って書く必要があり、真っ白な紙から書き起こすのは精神的にも体力的にも大きな負担です。
• 文章の構造化
「〇年〇月頃、〇〇の症状が出始め、〇〇病院を受診。当時は週に〇日しか出勤できず……」といった箇条書きのメモ程度のものをAIに入力すると、申立書のフォーマットに沿った、時系列で網羅的な文章へ変換してくれます。
• 傷病名に応じた症状等を考慮したうえで文章を生成することが可能
傷病名を入力しておけば、上記メモ書きが症例に沿った文章へと修正され、全体として統一感のある文章が作成されます。
2. 日常生活の「困りごと」の言語化サポート
自分の辛さや不便さは、主観的すぎて客観的な文章にするのが難しいものです。
• 表現の客観化
「とにかく毎日がしんどくて何もできない」という抽象的な表現をAIに伝えると、「朝自力で起き上がることが困難であり、同居家族の促しや手助けがなければ食事や入浴が行えない状態」といった、より伝わりやすい客観的・具体的な表現へ言い換えてくれます。
3 制度や用語の簡易的な下調べ
「事後重症請求って何?」「社会的治癒ってどういう意味?」といった、専門用語の一般的な意味を24時間いつでも、即座に分かりやすく解説してもらう辞書的な使い方が可能です。
障害年金に不慣れな役所の職員や、社労士に相談するよりも、より具体的な回答を得られることがあります。
生成AIを利用するときの注意点
病歴・就労状況等申立書の下書き作成などAIを活用するケースが増えていますが、以下の点注意が必要です。
• 情報漏洩のリスク
AIの学習データとして使われる可能性があるため、氏名、生年月日、具体的な医療機関名、勤務先などの個人情報は事前に入力せず、「〇〇病院」「△△会社」といった伏字・仮名でプロンプトを入力する必要があります。
• 大げさな表現や虚偽の混入
AIは時にドラマチックな文章を生成したり、入力していないエピソードを「もっともらしく」捏造したりします。障害年金の書類は「厳格な客観性」が求められるため、誇張や嘘が混ざると審査で不利になります。
*基本的に、認定医等は数分単位で膨大な数の請求書類に目を通していきます。AI作成の書類は人目でそれとわかるものです。もちろん、AIが作成した文章にわざと手を加えて、微妙にバランスを崩すことは可能ですが、多用されるワードについては、ほとんど見向きもされないと考えた方が無難です。
要は、マイナス評価がなされるような文言を、いかにして回避するかです。
• 医療データとの不一致
AIがいくら「綺麗で筋の通った文章」を作ったとしても、それが手元の「受診状況等証明書」や「診断書」に書かれている事実と矛盾していれば、書類全体の信憑性が失われます。
*上記同様、「読み易く整った文章である」こと自体、なにか審査においてプラスに評価されるわけでもありません。
AIを利用しても障害年金は難しい、その理由は
AIは文章の整理や要約には優れていますが、障害年金請求を100%信じて任せることは、残念ながら(一部の傷病を除いて)、現時点(令和8年)での生成AI性能では難しいと言わざるを得ません。
「制度上の論点」を見抜けない
障害年金は、他の公的年金制度や、健康保険、雇用保険さらには各種福祉制度との「併給調整」や「選択」が複雑に絡み合います。AIは、単一の請求書類作成は得意ですが、「この依頼者にとって、今障害年金を請求することが生涯設計において本当にベストか?」という判断ができません。
(下記の点を一つ一つAIで検証をかけていけば、完成度は高まるかもしれません)
・医師が診断書に記入する初診日が正しいか、請求人にとって他の選択肢はないのか?
・社会的治癒の主張がこの場合得になるのか?
・年金事務所の指示通り書くことが本当に正解か?
・併合認定を考えた場合、どの診断書が別途必要になるか?
・診断書を書いてもらう時期はいつが適当?
・額改定請求は一緒に提出すべきか?
・障害基礎、障害厚生の両方の請求をした方がよいか?
・本当に請求できない?初めて2級は? 等
「年金事務所、役所、医師、ソーシャルワーカー、その他福祉関係者等、だれに相談すべきか、だれの言っていることが正しいのか?話のポイントはどこか。」
病歴・就労状況等申立書に記載するということは、「自分自身で申し立てている」わけですから、後から都合が悪いからといって変更することはできません。
勘違いや、書かなくてもよいことを記述した場合、その後の不服申し立てや再請求を行う際にも、前回提出した書類との齟齬が問題と相手取り上げられ、いつまでも足を引っ張られることになります。
ありきたりな表現は「評価されない」と考えるべき
例えば、ASDの場合、AIでASDの主な症状を挙げさせると
・相手の表情や場の空気、言葉の裏にある「ニュアンス(本音と建前)」を読み取ることが苦手。
・比喩表現や「適当にやっておいて」といった曖昧な指示が理解しにくい。
・自分の関心のあることを一方的に話しすぎてしまうことがある。
・こだわりが強く、変化への適応が苦手
・物事の手順やスケジュールに強いルール(ルーティン)があり、急な変更があるとパニックや強い不安を感じる。
・興味のある特定の分野に対して、並外れた集中力や知識を発揮することがある。
・感覚の過敏さ・鈍麻さ 等
上記のような症例は、うつ病、統合失調症等内部疾患も含め、どの傷病でもある程度特徴的な症状が一瞬でAIにより抽出されます。病歴・就労状況等申立書の下書きを作成する際、ご自身のメモ書きに、このような症状が傷病ごとに自動的に加味されていきます。
では、審査の上でこれらの記載が重点的にチェックされ、望むような等級に認定してもらえるかというと、それほど単純ではないようです。
ASDで上記の症状を羅列してもそれは、審査においてプラス評価されるものではありません。むしろ、上記のような症状だけを延々と書き連ねた場合、マイナスの評価をされる可能性もあるのではないかと思います。要は、中身が無いのです。中身がない場合の例として、経済的困窮を訴える、主観的な感情を延々と書き連ねる、ありきたりな症状を羅列する等です。
実際、代理業務を行う上でも、日常生活を送るうえで、様々な制限がありご苦労されている方は具体的なエピソードに事欠きません。
医師とコミュニケーションをとることができない
診断書を実態に即した内容で、かつ認定基準に該当するように記入してもらうための「医師へのアプローチ方法」や「伝えるべきポイント」など、デリケートなやりとりや調整はAIには不向きです。
社労士は診断書に不備があると、認定基準や診断書の記載要領を示し、修正依頼書を作成します。7~8割の医師は何らかの形で修正には応じてくれます。なお、ご自身で依頼書を作成することも可能ですが、診断書の記載要領等をもとに客観的な事実、基準に基づいた内容でないと、「できない」の一言で取り合ってもらえない場合があります。一度へそを曲げられるとその後の修正はほぼ無理です。間違っても、感情的になって「症状を書き直して」というのはNGです。
ごくまれに患者からの診断書修正依頼に怒り出す医師もいますので、「伝え方」は要注意です。
「言語化されていない困りごと」は引き出せない
本人が「当たり前」だと思って気づいていない日常生活の制限や、言葉に詰まってうまく表現できない苦しみを、対話を通じてすくい上げる能力はAIにはありません。ご本人の症状に関係なく、請求傷病の特徴や症例をもとに文章を加筆(飾り立てて)行くことはできますが、結果的に、申立書の内容が診断書の内容から乖離していく場合もあります。
それでも、AIを利用して障害年金請求をする場合は
制度の理解が必要です。
こまめにAIで情報収集をし、できるだけそのソース元まで辿った上で、情報源そのものにあたっていく必要があります。
また、よくある落とし穴ですが、自分自身に都合の良い情報だけをうのみにしていくのはご法度です。
ご自身の理解に誤りはないか、少なくとも2回程度は年金事務所に相談に行かれた方がいいと思います。
人工関節、ペースメーカー等は初診証明の入手で躓くことがあるものの、比較的請求自体は容易ではないかと思います。年金事務所への相談を考えると3~6カ月程度で請求可能で、かつ診断書の内容でほぼ決まるため、病歴・就労状況等申立書の内容が単なる時系列程度のものであっても受給できる可能性は高いです。
社会保険労務士に依頼された方がよい場合
以下のような傷病はお近くの社労士に依頼される事をお勧めいたします。
*あくまでも個人的意見です。
知的障害(B1,B2)、発達障害等で20歳前傷病の場合。
これらは3級相当の場合不支給となります。また、知的と発達、知的とうつ病等が併存している場合は、より請求手続きが複雑になりますので、正直専門家に依頼した方がいいでしょう。
肢体障害、内部障害
診断書の記載内容を入念にチェックする必要があります。作成する医師が不慣れな場合が多く、作成された診断書をそのまま提出すると痛い目にあうことが多々あります。 *年金事務所で相談した場合、一般的なアドバイスは受けられると思います。
以上、ご自身で請求される場合、AIだけでは限界がありますので、必ず事前に予約して年金事務所へ相談に行ってください。ただし、担当者の経験値によってアドバイスの内容に差があるため、中途半端な回答を鵜呑みにすると、その後の軌道修正が困難になるケースもあります。
ネット上には、AIによる書類作成サービスを提供している方もいますが、システムの不備に対する責任の所在が曖昧ですのでおすすめは致しません。
障害年金の請求は、人生において一度あるかないかの極めて重要な手続きであり、その結果はこれからの生活を大きく左右します。 もし、ご自身での手続きに進めづらさや限界を感じられた場合は、決して一人で抱え込まず、お近くの障害年金を専門とする社会保険労務士にご相談されることをお勧めいたします。







