パーキンソン病での障害年金請求 受給へのステップと診断書作成のポイント

パーキンソン病の主症状(震戦、動作緩慢、固縮、姿勢反射障害など)は、日常生活における「歩く」「立つ」「書く」「持つ」といった基本動作に直結します。そのため、基本的には「肢体の障害(肢体の機能の障害用 / 様式第120号の3)」の診断書を用い、日常生活動作(ADL)の制限度合いをベースに請求を組み立てます。


 


1. 初診日の特定における留意点


 パーキンソン病は初期症状が多彩で進行が緩徐なため、初診日の特定で躓きやすい傷病です。
 
• 初期症状の多様性
 手足の震え(振戦)、動作の緩慢、歩行時の違和感、肩こりや腰痛に似た痛みなどから始まります。

• 初診日と認められるケース

 必ずしも「パーキンソン病」と確定診断された日ではなく、その諸症状で初めて医師の診療を受けた日(整形外科や内科、精神科等であっても因果関係が認められれば対象)となります。

• 進行性疾患としての認定日
 原則として初診日から1年6ヶ月経過した「障害認定日」の時点、またはそれ以降(事後重症)で請求を行います。


 パーキンソン病は脳神経内科での治療が多い傷病ですが、初期症状の落ち込みや意欲低下により、先に精神科を受診して後に転院するケースもしばしばあります。この場合、転院後の脳神経内科を初めて受診した日ではなく、最初に受診した精神科の受診日が初診日とみなされる可能性があるため注意が必要です。

 

 

2. 認定基準と等級の目安

 主に「肢体の障害(体幹・肢体の機能障害)」の診断書(様式第120号の3)を用い、「ホーエン・ヤール(Hoehn-Yahr)の重症度分類」や「生活機能障害度」、および「日常生活動作(ADL)の程度」を総合的に評価して認定されます。

障害の程度 障 害 の 状 態
1級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級 身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

 

各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。

 

障害の程度 障 害 の 状 態
1級 1. 一上肢及び一下肢の用を全く廃したもの
2. 四肢の機能に相当程度の障害を残すもの
2級 1. 一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの
2. 四肢に機能障害を残すもの
3級 一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの

 

 障害等級の目安と日常生活の状態

【1級】日常生活の用を弁ずることが不能な状態

(目安:ヤールⅤ度相当 / 自力での起立・歩行不可)
他人の介助がなければ、日常生活のほとんどのことができない状態です。活動の範囲が主に「ベッドの周辺」に限られます。

・移動・歩行
 自力での起立や歩行が全くできず、移動は車椅子(全介助)または寝たきりの状態。
・食事・入浴
 スプーンを持てない、あるいは口まで運べず全面的な介助が必要。入浴や着替えも一人では一切できない。・
・家庭内動作
 すわった姿勢を保つこと(座位保持)が困難、または横になった状態から自力で起き上がれない。

 

【2級】日常生活が著しい制限を受ける状態

(目安:ヤールⅢ〜Ⅳ度相当 / 強い姿勢反射障害・部分介助)
  必ずしも他人の助けを借りる必要はありませんが、日常生活が極めて困難で、労働によって収入を得ることができない程度の状態です(病院内の生活、または家庭内のごく狭い範囲での活動)。

・移動・歩行
 歩行時に激しいすくみ足や突進現象があり、頻繁に転倒する。杖や歩行器なしでの移動が著しく困難。
・食事・入浴
 時間がかかる、こぼすなど非常に不自由ながらかろうじて一人でできるか、部分的な介助(ボタンかけ、浴槽への出入りなど)を要する。
・家庭内動作
 階段の昇降ができない、あるいは手すりがあっても這って昇る状態。物を落としたときに自力で拾うのが困難。

 

【3級】労働が著しい制限を受ける状態(※厚生年金のみ)

(目安:ヤールⅢ度の一部など / 日常生活はやや不自由だが概ね自立)
 日常生活動作は時間はかかっても概ね一人でこなせますが、職種が限定されたり、就労において常に配慮が必要となる状態です。

・移動・歩行
 バランスを崩しやすく転倒の危険はあるが、平地であれば自力で歩行できる。
・食事・入浴
 手の震え(振戦)や動作緩慢により時間はかかるが、道具の工夫などを経て自力でこなせる。
・就労面の制限
 立ち仕事や細かな手作業が困難であり、デスクワークであってもPC入力や書類整理に著しく時間がかかるなど、一般就労において制限がある状態。

*上記はあくまでも参考例です。実際の審査においては、ステージだけで等級が決まるわけではなく、実際の生活能力・介助の有無・就労状況なども総合的に判断されます。



3. 診断書(肢体の障害用)における最重要ポイント

 書類審査において、医師が記載する診断書の以下の項目が等級決定の鍵を握ります。

• 「薬の効果(On・Off現象)」の反映

 抗パーキンソン病薬の服用により症状が一時的に改善する時間(On状態)と、薬が切れて動けなくなる時間(Off状態)が激しいケース(ウェアリング・オフ)が多く見られます。

  診察時が「On状態」だと、医師に「比較的動けている」と判断され実態より軽い診断書になりがちです。「最悪のとき(Off状態)のADL」が適切に反映されているかの確認が不可欠です。

 

• 「日常生活動作の程度」の判定項目

o つまむ、握る、タオルを絞る(手指の機能)
o スプーンでの食事、ワイシャツのボタン留め(上肢の機能)
o ズボン・靴下の着脱、立ち上がり(体幹・下肢の機能)
o 屋内外の歩行能力(片足立ち、杖や車椅子の使用状況)

※これらが「一人でできるが非常に時間がかかる」「事実上できない」といった実態通りに記載されているかがポイントです。

 

*評価の「5つの柱」が極めて重要

パーキンソン病の診断書作成や審査において、単なる筋力だけでなく、以下の5つの要素を総合的に考慮して認定すると定められています。
筋力: 筋力の低下。
関節可動域: 関節の動く範囲。
巧緻性(こうちせい): 指先の細かい動きや、動作の正確さ。
速さ: 動作にかかる時間(パーキンソン病では特に重要)。
耐久性: 動作を継続できるか、疲れやすさ。

 

*「一般状態区分表」との整合性

 難病や神経疾患の審査で重視されるのが「一般状態区分表(ア~オ)」です。

〇2級相当
区分が「エ(日中の50%以上は就床)」または「ウ(歩行や身のまわりのことはできるが時に少し介助が必要)」に該当する場合。

〇3級相当
 区分が「イ(軽労働はできるが肉体労働は制限を受ける)」に該当する場合。

上記区分が、肢体の動作制限の内容と矛盾していないか確認が必要です。
*等級相当はあくまでも目安です。

 

 



4. 病歴・就労状況等申立書で診断書を補完

 診断書だけでは伝わりきらない「日内変動」や「就労・生活面での不自由さ」を具体的に落とし込みます。

• 時間経過による変化
 「朝起きてから薬が効くまでの1時間は動けない」「夕方以降は歩行が小刻みになり転倒のリスクが跳ね上がる」など、1日のタイムスケジュールに沿った不自由さを明記します。

• 就労状況のリアル
 「事務職だがタイピングに倍以上の時間がかかる」「移動時は周囲のサポートが必須」「欠勤や遅刻が増えている」など、雇用の継続がいかに制限されているかを数値やエピソードを交えて主張します。

 パーキンソン病における「病歴・就労状況等申立書(以下、申立書)」は、診断書だけでは伝わりにくい「日常生活のリアルな困難さ」や「労働における制限」を年金審査官に具体的に伝えるための極めて重要な書類です。

申立書を作成する上で特に意識すべき注意点

1. 症状の「日内変動」と「オン・オフ現象」を明記する
 パーキンソン病の最大のポイントは、「薬が効いている時間(オン)」と「切れている時間(オフ)」で身体機能が劇的に変化する点です。
 診断書には、医師の診察時(比較的状態が良い時間帯など)の様子がベースに書かれてしまうことがあります。

 <注意点>
  「調子が良いとき(オン)」を基準に書くのではなく、「薬が切れたとき(オフ)に、何がどのくらいできなくなるか」を詳細に記載します。

<書き方の例>
  「薬を服用した直後の2時間は自力で歩行できるが、その後薬の効果が切れると(オフ状態)、足がすくんで一歩も動けなくなり、壁に伝わらなければトイレにも行けなくなる。このオフの状態が1日のうち約半分(計○時間)を占める。」

2. 動作の「緩慢さ」や「不随意運動(ジスキネジア)」を具体化する
 単に「歩きにくい」「手が震える」だけでなく、それが日常生活のどの動作に、どう影響しているかを数値や具体例で示します。

<日常生活における具体例>
・食事
  スプーンや箸がうまく使えず、こぼしてしまう。食事をとるのに通常の3倍(約1時間)かかる。
・着替え
  ボタンのかけ外しに15分以上かかる。ズボンの着脱時にバランスを崩して転倒するため、家族の支えが必要。
・入浴
  体を洗う、浴槽をまたぐ動作が危険なため、常に家族が同伴・介助している。

<注意点>
  「~がしづらい」という曖昧な表現ではなく、「~できないため、〇〇(家族など)の介助が必要」「通常の〇倍の時間がかかる」のように、客観的な支障度をアピールします。

3. 「すくみ足」と「転倒リスク」を強調する
 パーキンソン病特有の「すくみ足」や「突進現象」は、大怪我や骨折につながる非常に危険な症状です。

<注意点>
  転倒の頻度や、具体的な危険エピソードを盛り込みます。
・ 書き方の例
  「玄関などの段差や、方向転換をしようとした際に足が床に張り付いたようになり(すくみ足)、前方へつんのめるように転倒してしまう。週に3~4回は自宅内で転倒し、打撲が絶えないため、一人での移動を控えている。」

4. 就労状況における「制限」と「配慮」を詳細に書く
 もし請求時に仕事をされている場合、または休職中・退職された場合は、仕事への影響を明確にします。

・ 就労中の場合(重要)
 障害年金を受給しながら働いているケースも多くありますが、その場合は「周囲からどのような配慮を受けて、かろうじて労働ができているか」を記載する必要があります。 「デスクワーク中心の業務へ配置転換してもらった」 「薬のオン・オフに合わせて、頻繁に休憩をとることを許可されている」 「手足の震えやこわばりがあり、PC入力の速度が著しく低下しているが、同僚がカバーしてくれている」

・退職・休職に至った場合
  どのような症状が悪化し、業務の継続が不可能になったのか、そのプロセスを時期(申立書のマス目)に合わせて記載します。

5. 診断書(肢体の障害用)との「整合性」を保つ
 最も重要な実務上の注意点は、同時に提出する「医師の診断書」との間に矛盾がないことです。 注意点: 診断書の「日常生活動作の評価(日常生活における動作の障害の程度)」の欄と、申立書の内容が食い違っていると、審査において不整合を指摘され、信用性が低くなってしまいます。
  例えば、診断書で「つまむ:一人でできるがやや不自由」となっているのに、申立書で「手足が完全に固まって箸も鉛筆も一切持てない」と過剰に書いてしまうと、矛盾が生じます。 もし診断書の評価が、実際のオフ状態の辛さより「軽め」に書かれていると感じる場合は、申立書で「医師の前では緊張もあり、一時的にしっかり動けてしまうが、自宅に戻ると~」のように、診察時と在宅時のギャップを補足説明する形で調和を図ります。

6. 非運動症状(うつ・認知機能・睡眠障害)も漏らさず書く
 パーキンソン病は運動症状(震えや固縮)に目が向きがちですが、自律神経症状や精神症状(うつ症状、アパシー、幻覚、認知機能の低下、日中の強い傾眠)を併発することも少なくありません。

< 注意点>
  こうした「目に見えにくい症状」によって、日常生活や就労にどれだけ支障が出ているかも、重要な評価対象になります。該当する症状があれば、時期に合わせてしっかりと申立書に盛り込んでください。

 

 

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