「社会的治癒」の定義
審査会は、社会的治癒を「医学的には治癒(完治)に至っていないと認められる場合であっても、社会復帰が可能となり、外見上治癒したと見えるような状態」と定義しています。
具体的に社会的治癒があったと認められるのは、以下のすべての条件を満たす状態が相当の期間にわたって継続した場合です。
• 症状が消滅(または固定)している。
• 医療(予防的医療を除く)を行う必要がなくなっている。
• 通常の勤務に服していることが認められる。
認定された際の効果
社会的治癒が認められた場合、過去の傷病は一旦治癒したものとして扱われます。その後に症状が再度悪化した場合は「再発」とみなされ、「再発後に初めて医師の診療を受けた日」が新たな「初診日」として認定されます。
これにより、過去の受診時に保険料納付要件を満たしていなかったとしても、再発後の初診日時点で要件を満たしていれば、障害年金の受給が可能になる場合があります。
3. 判断における審査会の視点
審査会は、社会的治癒の適応判断について、画一的な基準だけでなく以下の要素を考慮すべきとしています。
• 疾病の特性や個人の社会的背景
それぞれの疾病が持つ性質や、本人の社会的な状況に応じて柔軟に取り扱うことが、社会的治癒の理念にふさわしいとしています。
• 「通常の勤務」の実態
「週休2日で安定的に就労していたこと」や「数年間にわたり寛解状態で就労を継続していたこと」などが重視されます。
• 治療の継続性
通院が続いていても、それが「維持量相当の投薬」であり「症状が安定」した状態での定期的受診であれば、社会的治癒を認める根拠となることもあります。
4. 具体的な判断事例(精神疾患全般の事例)
社会的治癒が認められた例
○ 統合失調症の事例(社会的治癒を容認)
状況: 平成21年に被害妄想が出現し受診したが、平成22年には症状が改善し、平成29年までの約7年間、寛解状態で就労を継続していた。
⇒ 決定: この約7年間を「社会的治癒に相当する期間」と認め、症状が再燃した平成29年の受診を新たな初診日として認めた。
○ うつ病・てんかんの事例(社会的治癒を容認)
状況: 平成26年から平成31年までの間、週休2日で安定的に就労しており、通院は2か月に1度程度で、薬も維持量相当で症状が安定していた。
⇒決定: 当該期間をもって「社会的治癒」を認め、症状が著しく悪化して処方薬が変更された日(令和1年)を初診日とした。
○摂食障害とうつ病の事例(別傷病・社会的治癒に近い判断)
状況: 過去に「摂食障害」で受診したが1か月半で通院を中断。その後、大学卒業、就労、家事などを両立できていた期間(約3年以上)があった。
⇒決定: 過去の摂食障害が継続していた事実は確認できず、後の「うつ病」の診断時を初診日と認めるのが相当とされた。
社会的治癒が認められず、不支給(却下・棄却)に繋がった例
○ 広汎性発達障害の事例(一連の精神疾患と判断)
状況: 請求人は平成16年の「強迫性障害」の受診を初診日として主張したが、客観的資料が不足していた。一方で、後の平成19年の受診時には「広汎性発達障害」と診断されていた。
⇒判断: 審査会は、過去の「強迫性障害」と現在の「広汎性発達障害」は「一連の精神疾患」であると判断した。結果として、客観的に証明できる最古の受診日(平成19年)が初診日として特定された。
○注意欠如多動性障害(ADHD)の事例(過去のうつ病との関連)
状況: 20歳以降にADHDと診断されたが、20歳の誕生日の翌日(平成11年)に「うつ病」として受診していた記録があった。
⇒判断: その最も古い受診時に、ADHDまたはこれと相当因果関係のある傷病が診療の対象であったと推認するのが合理的とされ、その時点を初診日とした。これにより、20歳前障害(保険料要件不要)としての主張は認められなかった。
発達障害は社会的治癒が認められるか
発達障害は「通常低年齢において発現するもの」と定義されていますが、社会的治癒が認められるか、あるいは過去の別病名での受診と継続性があるとみなされるかは、個別の事案ごとに判断されます。
裁決例をみると、精神疾患一般の考え方として、「数年間の安定した就労」と「投薬の最小化・治療の不要性」があれば、社会的治癒は認められ得ます。しかし発達障害の場合、過去の二次障害(うつ病、強迫神経症等)での受診が「発達障害に起因する一連の症状」とみなされる傾向が強く、その場合は社会的治癒が否定され、最も古い受診日が初診日として扱われることになります。
申立書に記載された、20歳前の状況、学校生活等においてどの程度発達障害の症状があらわれていたか、また、大学卒業後の就労状況等により個別に判断されると考えられます。日本年金機構から公式の見解は出ていませんので、発達障害で社会的治癒を主張すること自体禁じられているわけではありません。実際、医師の判断で以前の経過は治療の起点になってないので診断書に記載はしないということもあります。
ダメ元とは思いませんので、十分にチャレンジしてみる価値はあるかと思います。








