等級判定ガイドラインにおける「障害等級の判定」
<障害等級の判定>
障害認定基準に基づく障害の程度の認定については、このガイドラインで定める後記1の「障害等級の目安」を参考としつつ、後記2の「総合評価の際に考慮すべき要素の例」で例示する様々な要素を考慮したうえで、障害認定診査医員(以下「認定医」という。)が専門的な判断に基づき、総合的に判定する(以下「総合評価」という。)。
総合評価では、目安とされた等級の妥当性を確認するとともに、目安だけでは捉えきれない障害ごとの特性に応じた考慮すべき要素を診断書等の記載内容から詳しく診査したうえで、最終的な等級判定を行うこととする。
<障害等級の目安>
診断書の記載項目のうち、「日常生活能力の程度」の評価及び「日常生活能力の判定」の評価の平均を組み合わせたものが、どの障害等級に相当するかの目安を示したもの。
ガイドライン作成の経緯
1. 地域間格差の発覚(2014年〜2015年)
障害基礎年金の審査は、かつて各都道府県の日本年金機構の事務センターで行われていました。しかし、2014年に厚生労働省が実施した調査により、都道府県間で認定率に最大で約6倍の格差があることが判明しました。
特定の県では通りやすいが、別の県では落ちやすいという状況が統計的に証明され、受給者や支援団体から強い批判が起こりました。
2. 専門家検討会の設置
この格差を是正するため、厚生労働省は2015年に「精神・知的障害に係る障害年金の認定の適正化に関する検討会」を設置しました。
・目的: 認定基準(現在の「障害認定基準」)を補足し、全国どこで審査を受けても同じ結果になるような客観的な指標を作ること。
・課題: 精神障害は身体障害と異なり、数値で測定しにくいため、医師の診断書にある「日常生活能力の判定」や「程度」をどう点数化するかが焦点となりました。
3. ガイドラインの策定と運用開始(2016年)
検討会での議論を経て2016年(平成28年)7月にガイドラインが公表され、同年9月から運用が開始されました。
ガイドラインが導入した主な仕組み
・判定用評点の算出: 診断書の「日常生活能力の判定」の7項目を数値化し、その平均点と、「日常生活能力の程度」を掛け合わせた「目安表」を作成しました。
・総合判定: 数値だけでなく、一人暮らしなのか家族の援助があるのかといった考慮事項を明文化し、審査の透明性を高めました。
・審査体制の集約: 2017年には、審査業務自体が各都道府県から「障害年金センター(東京都内)」へ一括集約され、物理的にも全国一律の審査が行われる体制が整いました。
まとめ:ガイドラインの役割
このガイドラインは、従来の認定基準を「書き換えた」ものではなく、「認定基準をどう読み解き、どう判定するかという共通の物差し」として機能しています。 これによって、現在は全国で統一された基準での審査が定着していますが、依然として診断書の記載内容が判定を左右するため、このガイドラインの「考慮事項」を意識した書類作成が非常に重要となっています。
総合評価の際に考慮すべき要素の例
診断書の記載項目(「日常生活能力の程度」及び「日常生活能力の判定」を除く。)を5つの分野(現在の病状又は状態像、療養状況、生活環境、就労状況、その他)に区分し、分野ごとに総合評価の際に考慮することが妥当と考えられる要素とその具体的な内容例を示したもの。
等級判定にあたっての留意事項
(1) 障害等級の目安
① 「日常生活能力の程度」の評価と「日常生活能力の判定」の平均との整合性が低く、参考となる目安がない場合は、必要に応じて診断書を作成した医師(以下「診断書作成医」という。)に内容確認をするなどしたうえで、「日常生活能力の程度」及び「日常生活能力の判定」以外の診断書等の記載内容から様々な要素を考慮のうえ、総合評価を行う。
② 障害等級の目安が「2級又は3級」など複数になる場合は、総合評価の段階で両方の等級に該当する可能性を踏まえて、慎重に等級判定を行う。
(2)総合評価の際に考慮すべき要素
① 考慮すべき要素は例示であるので、例示にない診断書の記載内容についても同様に考慮する必要があり、個別の事案に即して総合的に評価する。
② 考慮すべき要素の具体的な内容例では、「2級の可能性を検討する」等と記載しているが、例示した内容だけが「2級」の該当条件ではないことに留意する。
③ 考慮すべき要素の具体的な内容例に複数該当する場合であっても、一律に上位等級にするのではなく、個別の事案に即して総合的に評価する。
総合評価
① 診断書の記載内容に基づき個別の事案に即して総合的に評価した結果、目安と異なる等級になることもあり得るが、その場合は、合理的かつ明確な理由をもって判定する。
② 障害認定基準に規定する「症状性を含む器質性精神障害」について総合評価を行う場合は、「精神障害」「知的障害」「発達障害」の区分にとらわれず、各分野の考慮すべき要素のうち、該当又は類似するものを考慮して、評価する
認定の流れ
障害年金請求(診断書、病歴就労状況等申立書)
↓
障害年金認定官が等級の目安を使って振り分け
↓
認定医が「総合評価の要素」を考慮し総合的に等級認定を行う
認定医が各障害等級別にあらかじめ振り分けられた等級と違う認定をする場合、基本的にその根拠となるのが「総合評価の要素」です。
*複数(2名程度)の認定医が認定する場合もあります。
但し、基本的には合議制ではなく、個々の認定医が持つ基準で判断されます。客観的に数値換算できる障害等級の目安ではなく、総合評価で最終的な等級が認定されますので、審査を行う認定医に当たり外れがあることも事実です。
総合評価の要素について
総合評価の要素に記載されている具体的な内容例はあくまでも限定列挙ではなく、例示列挙です。不支給決定を受け、認定調書を開示請求をした際、総合評価の要素に記載されている具体例がさも限定列挙であるかのような扱いで不支給根拠として記載されていることがあります。
等級の目安について
障害等級の目安のマトリクス表に記載された等級と異なる等級とする場合、「合理的かつ明確な理由が必要となってきます」(総合評価①)
①目安を超える等級を求める場合
目安の等級「3級」や「2級又は3級」の場合に、より上位の等級を求める場合は「総合評価の要素」をはじめ、その他の事項も含め、目安を超える等級(より上位の等級)とすべき合理的かつ明確な根拠を請求人側が提示していく必要があります。
<対処法>
・総合評価の要素で2級とされている具体例に該当する事実がある場合、できる限り診断書に記載してもらう。
・診断書だけでは不十分な場合は、病歴就労状況等申立書にも記載する。
診断書記載内容をどのように解釈するかは、認定医によりバラツキがありますので、不服申し立てを行う際には、「総合評価の要素」に該当する箇所が無いかどうか、診断書を確認し、その旨申し立てていく必要があります。
*残念ながら中身の薄い診断書を請求時に提出していた場合は認定を覆すことは非常に難しくなります。
②目安よりも低い等級となった場合
この場合は、保険者側が目安よりも低い等級とした、合理的かつ明確な根拠を示す必要があります。
不支給決定、もしくは目安2級で3級の判定を受けた場合は、審査請求等において、保険者が不支給根拠とする理由が、「合理的かつ明確」なものであるのかどうかを追及していかなければなりません。
障害年金「総合評価」で不利にならないための注意点
受給権を確実にするためのアプローチ
審査官は本人に会いません。すべて書類審査です。要は診断書と病歴就労状況等申立書ですべてが決まります。
「日常生活状況」を記した紙(メモ)を医師に渡す
診察の短い時間で、生活の苦労を全て伝えるのは不可能です。あらかじめ「食事」「入浴」「外出」「対人関係」などで、誰にどんな手助けを受けているかをA4用紙1枚にまとめ、診断書作成の資料として主治医に手渡します。これにより、より実態に即した診断書が作成されやすくなります。
「事実」に基づき、誇張を避ける
上位等級を希望するあまり、実際の症状とかけ離れた内容を伝えてはいけません。「内容が不自然だ」と疑念を持たれると、資料全体の信用性を失い、一切診断書に反映されなくなるリスクがあります。あくまで「ありのままの困りごと」を正確に伝えることが重要です。
日々の診察(カルテ)との整合性を保つ
診断書の内容は、これまでの診察記録(カルテ)に基づいて作成されます。
〇継続的な発信
毎回の受診時に、その時々の症状や職場でのトラブル、日常生活の支障をしっかり伝えておくことが必要です。
〇メモの役割
診察時に伝えていた内容と、お渡しする「生活状況に関するメモ」の内容が一致していれば、医師も自信を持って診断書を書くことができます。
医師の見立てとご自身の症状との間に「乖離」を生じさせない
医師の見立て(カルテ)と、本人が主張する症状に大きなズレがある場合、どれだけ深刻なメモを渡しても採用されません。 それどころか、診断書の内容が全体として整合性が取れていない場合、診断書の内容自体に疑義が生じ、カルテの開示請求に繋がります。結果として、カルテと診断書の内容に相違があった場合には、カルテの内容が優先されるため、不支給(もしくは下位の等級)と判断されることになります。
ご自身の症状について、医師と「共通認識」を持つ
「良い診断書」とは、単に重く書かれたものではなく、「医師がカルテを見返したときに、本人の訴えと矛盾がないと確信できるもの」です。 日頃から「今日はこれができなかった」「仕事でこういう配慮を受けた」といった具体的な事実を小出しに伝えておき、カルテにその「足跡」を残しておくことが、最終的に自分を守る最大の手立てとなります。
「病歴・就労状況等申立書」での補完
診断書に書ききれなかった「具体的なエピソード(例:パニックで電車を降りた、薬の飲み忘れを家族に指摘される)」を申立書に記載します。診断書の障害等級の目安と、申立書の内容に矛盾がないことが絶対条件です。
「総合評価の要素の具体例」に当てはまるものについては、しっかりと申立書に記載しておく必要があります。
万が一不支給となった場合、審査請求時に追加の申立書を提出し具体例等を挙げたところで、追加提出分は審査に取り上げてもらえません。
「援助がなければどうなるか」を想定して書く
ガイドラインは「援助がない状態を想定」して評価するよう定めています。例えば「家族が作ってくれたから食べた」は、能力的には「できない」に分類されます。この「援助があるから維持できている平穏」を、自力でできていると誤解されないように表現することが重要です。
実際の審査では、
「パートナーと同棲、母親も日常的に来てサポートしてくれている。父母との対人関係良好。家族以外とのかかわりは乏しい」との診断書の記載に対し、「体調によっては対人交流も可能、気分も落ち着いていることが窺え、日常生活が著しい制限を受ける程度に至らない」と判断された事例もあります。
援助の具体的な内容及びその頻度をしっかりと診断書や申立書に記載しておく必要があります。
障害年金の請求を検討されている皆さまへ
障害年金の審査は、ご本人が感じている「日々の生きづらさ」が、書類の上で正確に再現されているかどうかが全てです。
しかし、精一杯の思いで作成した診断書や申立書であっても、わずかな表現のニュアンスの違いで「不支給」という厳しい結果を招いてしまうケースが少なくありません。
一度下された決定を覆す「審査請求・再審査請求」には、膨大なエネルギーと時間(1年~1年6か月)を要します。 不支給の通知が届いてから後悔するのではなく、最初の提出前に、社会保険労務士へ一度ご相談ください。








